7月24日(日)13時〜 @オンライン
ミッキーの絵本探究ゼミの第4回のレポートです。
4月24日に発足したインフィニティアカデミアの絵本探求ゼミも、今回で4回の学びを終えました。残すところは、8月6日〜8日に北海道は層雲峡で行われる合宿を残すのみとなりました。
振り返ると、毎月1回のゼミでしたが、事前課題に取り組み、資料を読み、また終了後に振り返りシートを書くという学びのサイクルで、絵本というものを研究の対象として捉え、分析するという姿勢が身についたのではないかと思います。
(過去3回の受講レポート→こちら)
もちろん私自身は、今までも絵本を研究の対象としてきたのですが、出発が大学時代の幼児教育学の中での絵本論、つまり保育教材としての絵本、子どもの育ちを助ける絵本、ことばの発達を促す絵本というような視点での分析だったのです。
つまり研究のアプローチが違う。
学生時代も、ゼミではさまざまな絵本を読み比べ、テキストと絵について分析をしていたのですが、常に子どもの目から見てどうなのか、子どものイマジネーションの広がりとの関係について絵本を捉えてきました。
今回のミッキーの絵本探求ゼミでは、まずは絵本の技法というところにスポットをあて、絵を読み解くという研究方法だったのは、また私自身の絵本理解へのもうひとつの扉を開けてくされたと感じています。
もちろんそういう手法があることは、絵本学会発足時から会員になっているので、学会の論文などを読んで知ってはいました。ミッキーから参考文献として取り上げられた資料もほぼ手元にあって、一応は目を通していました。
しかし、私の中で技法について殊更に取り上げるということよりも、子どもたちが絵本を読んでもらって発見するさまざまなコトやモノというものに注目してきたのです。その延長線上に、子どもの気持ちを捉える効果的な表現や技法があるという捉え方をしてきました。
つまり、技法ありきではなく、その技法もあくまでも子どもがそれをどう受け止めるかということのほうに重点を置いてきたと言えるでしょう。
ただ、今回の学びを通して、絵本作家側の意図、その絵本をどのように子どもたちに届けたいのか、物語なり、テーマとしているものを、伝えていくための工夫としての技法について、より理解を深めることが出来ました。
幼児教育学の中での絵本論というところから学びを出発させている私にとっては、その視点を持ちえたことは、今後の絵本の研究や選書に少なからず影響を及ぼすだろうと思います。
さて、第4回の学びは、そうした絵本の技法を踏まえたうえで、「読書年齢と絵本」についてそれぞれが考え、選書してきて、それがどんな年齢の読者を想定して選んだかを発表し合いました。
チーム1では、5人のうちおひとりは欠席でアーカイブ受講、4人でのブレイクルームでした。
4人はそれぞれ立場が違っています。いさっちは高校の先生、おこちゃんは元学校司書で現在はその経験を生かす図書館ボランティアをしています。えりちゃんは保育園で働く保育士さん、そして私は家庭文庫主宰で幼稚園の保育補助の仕事をしています。
それぞれが想定する子どもの年齢なども違うため、バラエティに富んだ選書になりました。
いさっちは、メンタルに問題を抱えている中高生に向けての選書で、元灘高校の英語の先生がこの6月に出版された『あなたのちからになりたくて』(木村達哉/著 ラグーナ出版 →こちら)を紹介してくださいました。
おこちゃんは、子どもの成長過程で「自分を認めてもらう」体験が自立につながるという視点で、2,3才〜小学低学年の子どもたちを3つの段階に分けて、それぞれに相応しい絵本を選びました。
まず第一次反抗期の2,3才の頃の子どもたちには、可愛いばかりではなく自我が出来てきて、おとなから見たら扱いづらい時期ではあるけれど、変わらずあなたは大切な存在だというメッセージをこめて『ちびゴリラのちびちび』(ルース・ボーンスタイン/作 いわたみみ/訳 ほるぷ出版 1978 →こちら)
自分で歩きはじめて、次々に周囲にあるものに興味を持つようになった3才頃の子どもたちには『いっぽ、にほ』(シャーロット・ゾロトウ/文 ロジャー・デュボアザン/絵 ほしかわなつこ/訳 童話館出版 2009 →こちら)
4〜5才になって下に弟妹などが出来て、自分で初めてのことに挑戦する子どもたちに向けて、恐怖心を乗り越えて成長する姿と、それを受け止めてくれる親の存在を再確認できる絵本として『はじめてのおつかい』(筒井頼子/文 林明子/絵 福音館書店 1977 →こちら)を選びました。
そして年長〜小学校低学年の子どもたちに向けては、小さな存在でも社会の中で役立つ、社会の中で価値がある存在だということを伝える絵本として『ちいさなメリーゴーランド』(マーシャ・ブラウン/作 こみやゆう/訳 瑞雲舎 2015 →こちら)を選書しました。
子どもたちの成長を励ます絵本にも発達に応じていろいろな段階があることを、元学校司書のおこちゃんが見事なブックトークで紹介してくれました。
えりちゃんは、今、ご実家の高齢のお母さまの様子が気になるということで、そのお母さまに向けて絵本を選書しました。第2回の学びで絵本というメディアは、子どもだけが対象ではない、年齢の低い子どもたちにはまだ理解できないという絵本はあるかもしれないけれど、それ以上はどの世代の人も絵本を読む対象になりうると話しあったのですが、まさに今回えりちゃんは、身体が弱ってきているお母さまに向けて選書したのでした。
1冊目は日本の国歌になっている『ちよにやちよに』(白駒妃登美/文 吉澤みか/絵 山本ミッシェール/英訳 文屋 2021)を紹介。日本人であることや古代の愛の詩を読んであげたいという娘心のようです。この本は図書館では詩画集に分類されています。
次に兄と一緒に子ども時代に田舎の川で遊んでいたそんな姿を思い出してほしいということで、田島征三の『とわちゃんとシナイモツゴのトトくん』(田島征三/作 ひだまり舎 2021 →こちら)
そして昔話もきっと好きだろうということで、昨年のオンライン絵本会でも読んだ『かっぱのすりばち』(佐藤修/原作 廣田弘子/再話 藤原あずみ/絵 2009 一声社 →こちら)
最後に私の選んだ絵本を紹介しました。ちょうど絵本学会の絵本モニターの原稿の締め切りが7月31日で、テーマが「平和を考える」絵本だったので、同じテーマで年齢を考慮しながら3冊をチョイスしました。
*****
1冊目
対象年齢4〜5才
2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始し、早くも5カ月が経過していまいました。この間、図書館などでも「戦争と平和」をテーマにした展示がされたりというのを見聞きしています。書店でもそういうコーナーが出来ています。
テレビをつけると容易に街が空爆されている映像が流れるため、まだ親子の愛着関係を緊密に保つ必要のある幼児期〜小学校低学年までは、できればそういう映像をシャットダウンしてほしいと思っています。
そして「今こうしてパパやママと一緒に暮らせること」「夜になったら安心してベッドにいけること」「朝までぐっすりと休めること」が、いかにかけがえのないものかを、子どもたちと一緒に味わってほしいと思います。
日常が平安で心安らかに過ごせている子どもたちは、もう少し長じて国と国との緊張関係が崩壊して戦争になることを学んだとしても、戦争がその平穏な日常を容易く壊してしまうのだとわかれば、「戦闘がかっこいい」と短絡的に考えることもないはずなのです。
なので、幼児期の子どもたちには「やすらかな眠り」をテーマにした『ここがわたしのねるところ』を選びました。
小学校中学年になると、日本が地球上のどこに位置しているのかがわかり、地球儀などを使って世界のことも学ぶ機会が増えます。北緯36度の線を地球儀に沿ってずっと西へ西へと指さしていくと、朝鮮半島から中国大陸を横切り、クルルン山脈を越え、アフガニスタンを横切り、黒海の南を通って地中海の西の端、ジブラルタル海峡へと繋がっていることがわかります。
大きな鳥がまっすぐ西へ飛んでいくとしたら、その鳥はどんな景色を見るのだろうか、というまさに鳥の目になって俯瞰して見ることができるような年代、メタ認知が可能になった子どもたちには『えほん 北緯36度線』をお勧めしたいのです。
地球儀には国境線が印刷されていますが、実際の地球上には国境の線は引かれてはいない。ただ権力者がその領土を奪い合い、壁や鉄条網で囲っているだけなのだということを知れば、その略奪の応酬がどれだけ不毛なものなのかを理解できるようになるのではと、期待できるからです。
そして小学校6年生になれば、関西や中国地方の子どもたちは修学旅行で広島や長崎の原爆について学び資料館などを訪れる機会もあると思い、調べ学習にも使える資料としても優れ、絵と文章の力もある那須さんの『絵で読む 広島の原爆』を手渡したいと思います。
科学技術の進歩は素晴らしいけれど、それが一旦殺りく兵器へと応用されてしまうと、一度に大量の人を殺すことができる兵器になってしまうことを、自覚的に知ってほしいと思うのです。
今、ウクライナ情勢を逆手にとって、日本でも軍備拡張、核兵器による抑止力を声高に訴える人が増えています。しかし、現時点では世界の中で唯一の被爆国である日本の子どもたちに核兵器の破壊力と、その殺傷能力、そして生き残った後にも続く放射線被害について、きちんと知っておいてほしいと思うからです。
と、このように一口に「平和を考える」というテーマで、絵本を選ぶとしても、どんな年齢のどんな体験を重ねてきた子どもに手渡すかを、きちんと吟味し、相応しい選書をする必要があると考えます。
とくに、戦争のように子どもの心をいたずらに不安にさせかねないテーマの場合は、より慎重な選書が必要になってきます。
そのためにも、子どもの心理やことばの発達についてきちんと学び、その対象年齢に相応しい絵本とはどういうものなのかを常に考えられる知識を身につけることがとても大切だと、改めて思いました。
各チームの発表でも、多くの方が普段から司書として、あるいはボランティアとして、子どもたちに本を手渡す活動をされているので、きちんと子どもの発達に合わせて選書されていました。
******
さて、次回の絵本ゼミは合宿の中で各チームの発表になります。
私たちのチームは、5人が置かれている立場が違っているので(今回欠席だったいおりさんはプロのアナウンサーで朗読指導者)、それぞれがミッキーの絵本探究ゼミで学んだことをどのように生かすのかを、インタビュー形式で表明できるように準備しています。
リアル合宿で学んだことも、またリフレクション出来ればと思っています。
ミッキーの絵本探究ゼミの第4回のレポートです。
4月24日に発足したインフィニティアカデミアの絵本探求ゼミも、今回で4回の学びを終えました。残すところは、8月6日〜8日に北海道は層雲峡で行われる合宿を残すのみとなりました。
振り返ると、毎月1回のゼミでしたが、事前課題に取り組み、資料を読み、また終了後に振り返りシートを書くという学びのサイクルで、絵本というものを研究の対象として捉え、分析するという姿勢が身についたのではないかと思います。
(過去3回の受講レポート→こちら)
もちろん私自身は、今までも絵本を研究の対象としてきたのですが、出発が大学時代の幼児教育学の中での絵本論、つまり保育教材としての絵本、子どもの育ちを助ける絵本、ことばの発達を促す絵本というような視点での分析だったのです。
つまり研究のアプローチが違う。
学生時代も、ゼミではさまざまな絵本を読み比べ、テキストと絵について分析をしていたのですが、常に子どもの目から見てどうなのか、子どものイマジネーションの広がりとの関係について絵本を捉えてきました。
今回のミッキーの絵本探求ゼミでは、まずは絵本の技法というところにスポットをあて、絵を読み解くという研究方法だったのは、また私自身の絵本理解へのもうひとつの扉を開けてくされたと感じています。
もちろんそういう手法があることは、絵本学会発足時から会員になっているので、学会の論文などを読んで知ってはいました。ミッキーから参考文献として取り上げられた資料もほぼ手元にあって、一応は目を通していました。
しかし、私の中で技法について殊更に取り上げるということよりも、子どもたちが絵本を読んでもらって発見するさまざまなコトやモノというものに注目してきたのです。その延長線上に、子どもの気持ちを捉える効果的な表現や技法があるという捉え方をしてきました。
つまり、技法ありきではなく、その技法もあくまでも子どもがそれをどう受け止めるかということのほうに重点を置いてきたと言えるでしょう。
ただ、今回の学びを通して、絵本作家側の意図、その絵本をどのように子どもたちに届けたいのか、物語なり、テーマとしているものを、伝えていくための工夫としての技法について、より理解を深めることが出来ました。
幼児教育学の中での絵本論というところから学びを出発させている私にとっては、その視点を持ちえたことは、今後の絵本の研究や選書に少なからず影響を及ぼすだろうと思います。
さて、第4回の学びは、そうした絵本の技法を踏まえたうえで、「読書年齢と絵本」についてそれぞれが考え、選書してきて、それがどんな年齢の読者を想定して選んだかを発表し合いました。
チーム1では、5人のうちおひとりは欠席でアーカイブ受講、4人でのブレイクルームでした。
4人はそれぞれ立場が違っています。いさっちは高校の先生、おこちゃんは元学校司書で現在はその経験を生かす図書館ボランティアをしています。えりちゃんは保育園で働く保育士さん、そして私は家庭文庫主宰で幼稚園の保育補助の仕事をしています。
それぞれが想定する子どもの年齢なども違うため、バラエティに富んだ選書になりました。
いさっちは、メンタルに問題を抱えている中高生に向けての選書で、元灘高校の英語の先生がこの6月に出版された『あなたのちからになりたくて』(木村達哉/著 ラグーナ出版 →こちら)を紹介してくださいました。
おこちゃんは、子どもの成長過程で「自分を認めてもらう」体験が自立につながるという視点で、2,3才〜小学低学年の子どもたちを3つの段階に分けて、それぞれに相応しい絵本を選びました。
まず第一次反抗期の2,3才の頃の子どもたちには、可愛いばかりではなく自我が出来てきて、おとなから見たら扱いづらい時期ではあるけれど、変わらずあなたは大切な存在だというメッセージをこめて『ちびゴリラのちびちび』(ルース・ボーンスタイン/作 いわたみみ/訳 ほるぷ出版 1978 →こちら)
自分で歩きはじめて、次々に周囲にあるものに興味を持つようになった3才頃の子どもたちには『いっぽ、にほ』(シャーロット・ゾロトウ/文 ロジャー・デュボアザン/絵 ほしかわなつこ/訳 童話館出版 2009 →こちら)
4〜5才になって下に弟妹などが出来て、自分で初めてのことに挑戦する子どもたちに向けて、恐怖心を乗り越えて成長する姿と、それを受け止めてくれる親の存在を再確認できる絵本として『はじめてのおつかい』(筒井頼子/文 林明子/絵 福音館書店 1977 →こちら)を選びました。
そして年長〜小学校低学年の子どもたちに向けては、小さな存在でも社会の中で役立つ、社会の中で価値がある存在だということを伝える絵本として『ちいさなメリーゴーランド』(マーシャ・ブラウン/作 こみやゆう/訳 瑞雲舎 2015 →こちら)を選書しました。
子どもたちの成長を励ます絵本にも発達に応じていろいろな段階があることを、元学校司書のおこちゃんが見事なブックトークで紹介してくれました。
えりちゃんは、今、ご実家の高齢のお母さまの様子が気になるということで、そのお母さまに向けて絵本を選書しました。第2回の学びで絵本というメディアは、子どもだけが対象ではない、年齢の低い子どもたちにはまだ理解できないという絵本はあるかもしれないけれど、それ以上はどの世代の人も絵本を読む対象になりうると話しあったのですが、まさに今回えりちゃんは、身体が弱ってきているお母さまに向けて選書したのでした。
1冊目は日本の国歌になっている『ちよにやちよに』(白駒妃登美/文 吉澤みか/絵 山本ミッシェール/英訳 文屋 2021)を紹介。日本人であることや古代の愛の詩を読んであげたいという娘心のようです。この本は図書館では詩画集に分類されています。
次に兄と一緒に子ども時代に田舎の川で遊んでいたそんな姿を思い出してほしいということで、田島征三の『とわちゃんとシナイモツゴのトトくん』(田島征三/作 ひだまり舎 2021 →こちら)
そして昔話もきっと好きだろうということで、昨年のオンライン絵本会でも読んだ『かっぱのすりばち』(佐藤修/原作 廣田弘子/再話 藤原あずみ/絵 2009 一声社 →こちら)
最後に私の選んだ絵本を紹介しました。ちょうど絵本学会の絵本モニターの原稿の締め切りが7月31日で、テーマが「平和を考える」絵本だったので、同じテーマで年齢を考慮しながら3冊をチョイスしました。
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1冊目
対象年齢4〜5才
『ここがわたしのねるところ』
レベッカ・ボンド/文 サリー・メイバー/作画 まつむらゆりこ/訳 福音館書店 2022
(紹介文)
オランダの子どもたちは屋形船の中で、中南米の国ではハンモックに揺られながら、インドのように暑い国では蚊帳をつったベッドで、アフガニスタンの子どもは敷物の上で、日本では畳の上に布団を敷いてと、世界各地の寝る習慣は違うが、一日の終わりに子どもたちが安らかに眠りにつけるのが何よりの平和の証。それぞれの地域の伝統的なデザインや文様も含めて全場面が精巧なアップリケと緻密な刺繍で描かれ、子守歌のような文章が読むものを安らかな眠りに誘う。
世界には戦火や災害、貧困で家を無くし、安心して眠る場所を持たない子どもが大勢いる。その子たちに一日も早く安らかな眠りが訪れることを祈らずにいられない。
2冊目
対象年齢 小学校中学年10歳以上
2冊目
対象年齢 小学校中学年10歳以上
『えほん 北緯36度線』
小林豊/作 ポプラ社 1999
(紹介文)
そこに生きる人々の何気ない生活がいかにかけがえのないものか。
「きっと 大きな鳥は しっているのだ。
にんげんが、じめんに 線をひき、その線を、なんども ひきなおすことを。
その線をこえて 生きることの、よろこびを。」
権力者たちが武力で他人の領土に侵略していくのが戦争。鳥の目で見たら、国境という線は見えない。戦争がいかに愚かなことなのか、私たちは想像しなければならない。
3冊目
対象年齢:小学6年生〜中高生 12歳以上
3冊目
対象年齢:小学6年生〜中高生 12歳以上
『絵で読む 広島の原爆』
那須正幹/文 西村繁男/絵 福音館書店 1995
(紹介文)
2021年7月に没した那須正幹さんは東京子ども図書館機関誌「こどもとしょかん」170号(2021夏)に「被爆を体験している世代としては、この絵本が、あの日のことを語り伝えるよすがとなれば望外の喜びである。私にとって、この本は遺書のようなものなのだ。」と書き残された。
ご自身が3歳で被爆しつつも、広島を離れて一児の父となるまでは原爆を創作の対象にできなかったという那須さんが、子どもにわかる言葉で多角的に広島の原爆を捉えようとされた偉業である。ウクライナ情勢を機に日本も軍備に走ろうとする今、その遺志をしっかりと受け取り、子どもたちに手渡していきたいと強く思う。
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2月24日にロシアがウクライナ侵攻を開始し、早くも5カ月が経過していまいました。この間、図書館などでも「戦争と平和」をテーマにした展示がされたりというのを見聞きしています。書店でもそういうコーナーが出来ています。
テレビをつけると容易に街が空爆されている映像が流れるため、まだ親子の愛着関係を緊密に保つ必要のある幼児期〜小学校低学年までは、できればそういう映像をシャットダウンしてほしいと思っています。
そして「今こうしてパパやママと一緒に暮らせること」「夜になったら安心してベッドにいけること」「朝までぐっすりと休めること」が、いかにかけがえのないものかを、子どもたちと一緒に味わってほしいと思います。
日常が平安で心安らかに過ごせている子どもたちは、もう少し長じて国と国との緊張関係が崩壊して戦争になることを学んだとしても、戦争がその平穏な日常を容易く壊してしまうのだとわかれば、「戦闘がかっこいい」と短絡的に考えることもないはずなのです。
なので、幼児期の子どもたちには「やすらかな眠り」をテーマにした『ここがわたしのねるところ』を選びました。
小学校中学年になると、日本が地球上のどこに位置しているのかがわかり、地球儀などを使って世界のことも学ぶ機会が増えます。北緯36度の線を地球儀に沿ってずっと西へ西へと指さしていくと、朝鮮半島から中国大陸を横切り、クルルン山脈を越え、アフガニスタンを横切り、黒海の南を通って地中海の西の端、ジブラルタル海峡へと繋がっていることがわかります。
大きな鳥がまっすぐ西へ飛んでいくとしたら、その鳥はどんな景色を見るのだろうか、というまさに鳥の目になって俯瞰して見ることができるような年代、メタ認知が可能になった子どもたちには『えほん 北緯36度線』をお勧めしたいのです。
地球儀には国境線が印刷されていますが、実際の地球上には国境の線は引かれてはいない。ただ権力者がその領土を奪い合い、壁や鉄条網で囲っているだけなのだということを知れば、その略奪の応酬がどれだけ不毛なものなのかを理解できるようになるのではと、期待できるからです。
そして小学校6年生になれば、関西や中国地方の子どもたちは修学旅行で広島や長崎の原爆について学び資料館などを訪れる機会もあると思い、調べ学習にも使える資料としても優れ、絵と文章の力もある那須さんの『絵で読む 広島の原爆』を手渡したいと思います。
科学技術の進歩は素晴らしいけれど、それが一旦殺りく兵器へと応用されてしまうと、一度に大量の人を殺すことができる兵器になってしまうことを、自覚的に知ってほしいと思うのです。
今、ウクライナ情勢を逆手にとって、日本でも軍備拡張、核兵器による抑止力を声高に訴える人が増えています。しかし、現時点では世界の中で唯一の被爆国である日本の子どもたちに核兵器の破壊力と、その殺傷能力、そして生き残った後にも続く放射線被害について、きちんと知っておいてほしいと思うからです。
と、このように一口に「平和を考える」というテーマで、絵本を選ぶとしても、どんな年齢のどんな体験を重ねてきた子どもに手渡すかを、きちんと吟味し、相応しい選書をする必要があると考えます。
とくに、戦争のように子どもの心をいたずらに不安にさせかねないテーマの場合は、より慎重な選書が必要になってきます。
そのためにも、子どもの心理やことばの発達についてきちんと学び、その対象年齢に相応しい絵本とはどういうものなのかを常に考えられる知識を身につけることがとても大切だと、改めて思いました。
各チームの発表でも、多くの方が普段から司書として、あるいはボランティアとして、子どもたちに本を手渡す活動をされているので、きちんと子どもの発達に合わせて選書されていました。
******
さて、次回の絵本ゼミは合宿の中で各チームの発表になります。
私たちのチームは、5人が置かれている立場が違っているので(今回欠席だったいおりさんはプロのアナウンサーで朗読指導者)、それぞれがミッキーの絵本探究ゼミで学んだことをどのように生かすのかを、インタビュー形式で表明できるように準備しています。
リアル合宿で学んだことも、またリフレクション出来ればと思っています。