1月22日(日)13:00〜
【リフレクション】
私の専門は幼児教育学で、中でも絵本論のゼミにいた。つまり特に乳幼児期の発達と合せた絵本の学びをしていた。
人生最初期のことばの発達は、脳の発達に繋がっており、家庭環境や運動機能などとも密接な関係がある。ことばは、人が「人間」として育っていくために必要なコミュニケーションのツールであり、自分の思いを表現するためにも、また相手の思いを理解するためにも大切である。
この「ことばの発達」には、脳の発達に関連して臨界期があることがわかっている。2018年に出版されたダナ・サスキンドの『3000万語の格差 赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ』(明石書店)では、耳鼻科外科医である著者が、人工内耳を装着する手術が遅くなると人工内耳で音声を電気信号として受信できても「ことば」として理解できない、コミュニケーションの道具として脳が認識しないということがわかり、2歳くらいまでの間にたくさんのことばを聞くことの重要性を訴えている。

この、人生の最初期の2〜3年にどんなことばを聞くのか、その質と量が、その子の「ことばの力」を既定していくのであるならば、いかにその時期に出合うことばが大事であるか、ということになる。
言語心理学、認知科学が専門の今井むつみは『ことばの発達の謎を解く』(筑摩書房 2013)で、ことばの発達の過程を解き明かし、『親子で育てることば力と思考力』(筑摩書房 2020)では、ことばの力を育てることが、いかに子どもたちの思考力を伸ばすために大切かを解いている。
この時期に出合う「ことば」の質をどう担保するか。もちろん普段の家庭内での会話の質にも関連するが、やはりこの時期にどんな絵本を読んでもらうかによっても、大きな差が出るのではと考える。
この「ことば」とは何か。
どの国のどの民族に生まれるかによって、母語が違う。コミュニケーションの道具として、また思考のための概念形成のためにも、まずは基礎となる母語がしっかりと身についておく必要がある。
前出の『ベーシック絵本入門』には、「ことばの絵本の基本概念」として次のような記述がある。
「子どもがことばを獲得するには、両親をはじめ身近な大人が正しい発音で、ゆっくりと、頻繁に話しかける出生後の生育環境が重要であり、絵本の読み合いなどを通した豊富な言語環境を整えることが有効である。それによって子どもは母語である日本語をしっかり自分のものにすることができる。」p96
母語である日本語のリズム、抑揚、音感、まずはそうした耳から聞こえてくることばの面白さを子どもたちと味わい、豊かな言語環境を整えるために、この「ことばの絵本」には大きな役割がある。
もちろん、「絵本」そのものが、短く、研ぎ澄まされた、選び抜かれた文章と、そして「絵」でもその情景を語り、子どもたちは絵を読むことによって、ことばになっていない部分のイメージを補い、物語の世界に誘われる。
「ことばの絵本」と特別にジャンルわけしなくても、すべての絵本が子どもたちのことばを育て、言語感覚を研ぎ澄ませていくことは間違いない。が、しかし、特にことばのリズムや、抑揚、ことばの持つ面白さ(韻を踏むとかダジャレなど)を伝えるには、こうした「ことばの絵本」は大切である。
たとえば、昔から口承で祖父母から孫へ、親から子へと伝えられてきた昔話やわらべうたは、そうした「ことば」の味わいを「音」として聞くことで、深く心に刻み付けてきたものだろう。
欧米では詩歌の暗誦を子どもの頃に盛んにやる。あれもまた、繰り返し詩を口に出すことで、ことばの持つ抑揚や韻を味わい尽くす働きである。
今、そうした口承による「ことば」の伝達が、昭和の高度成長期を境に受け継ぎにくくなっていることもあり、「ことばの絵本」の役割は非常に大きいと考える。
このような考察を経て、私がチームディスカッションで紹介した絵本は次の2冊であった。
まずは『すっすっはっはっこ・きゅ・う』

『すっすっはっはっこ・きゅ・う』長野麻子/作 長野ヒデ子/絵 童心社 2010
(出版社サイト→こちら)
絵本作家長野ヒデ子さんの娘さんで、音楽と身体論を研究されている長野麻子さん(研究者情報→こちら)の作られた絵本。
《内容》
呼吸ってすばらしい!声はまさしく呼吸から生まれ、言葉も音楽も呼吸から生まれる。呼吸は喜び、怒り、悲しみなど、さまざまな感情を表現できる私たちの命の源だ。ページをめくりながら呼吸をし、たくさんの声を出していろいろな気持ちを感じよう。なぜか不思議と楽しい気持ちになれる。(「BOOK」データベースの商品解説)
声を出して読むことで、呼吸して声を発して様々なコミュニケーションを行っていること、声は思いや感情を自由に伝える不思議な言葉でもあることが楽しく実感できる。(童心社サイトより)
《考察》
声は呼吸から始まるということが、読んでいてわかる。赤ちゃんの最初のことばも呼吸とともに発せられる。生後6週間くらいから始まる前言語的音声の「あー」「くー」というクーイング、そして「あーあーあー」という発声の喃語、そして喃語も「ばばば」「ばぶばぶ」と音節に子音の加わった喃語へと変化していく。そうした初めの発声からはじまり、より複雑な音へと、呼吸を意識させながら吸ってはいて、吸ってはいて、と繰り返していく。やがてその音声は笑い声になり、意識的にとがった声やまるい声を出し、いろんな音を出していく。へんな声、こわい声、おこった声、かなしい声、声の出し方や強さによって伝わる意味が違うことがわかっていく。
そうした音の出し方、声を出すときの呼吸にも意識しながら、声を出す楽しさを感じることができるため、親子で声に出して実際にそのちがいを実感することができる。その点で「ことばの絵本」として、注目に値する絵本といえる。
もう一冊は『あいうえおうた』

『あいうえおうた』谷川俊太郎/文 降矢なな/絵 福音館書店 1996
(出版社サイト→こちら)
《内容》
《考察》
あ行など、行ごとのことばの持つイメージのひろがり、ことばのリズムが子どもたちを喜ばせる絵本。降矢ななさんの絵と共に、あ行からわ行までそれぞれの5音を使って唱え言葉が添えられ、これは自分でも声に出して味わいたくなる。日本語の50音の構成を知り、声に出して読むことで、ことばの面白さがわかる。この絵本は当初、月刊誌「年少版こどものとも」として出版されたこともあり、対象年齢は3〜4歳だが、小学生に読んで聞かせて、唱和してもらうと面白がって参加してくれる。対象年齢を問わない作品である。
************
「ことばの絵本」というと、あかちゃん絵本の中でも特にオノマトペを用いた絵本が印象深い。
駒形克己の『ごぶごぶごぼごぼ』は、かつて図書館司書として働いていた頃、ブックスタート事業で保健センターの4カ月検診の際に持って行って読むことが多かった。生まれて初めて集団の場に連れて来られ、不安げにしている赤ちゃんたちが、『ごぶごぶごぼごぼ』を読むと、一斉に視線をこっちにむけ、じっと耳を傾けるのだ。その集中に背筋がぞわぞわすることが何度もあった。

『ごぶごぶごぼごぼ』駒形克己/作 0.1.2えほん 福音館書店 1999
駒形克己さんの講演会で、この絵本は娘さんが記憶していた胎内での思い出をもとに制作されたとおっしゃっていた。お母さんのお腹の中で聞いていた音に近いから、乳児が反応するのではないか。
また谷川俊太郎の『もこもこもこ』はあかちゃん絵本ではないのに、やはり小さな赤ちゃんが大好きな絵本である。

『もこもこもこ』谷川俊太郎/文 元永定正/絵 文研出版 1977
赤ちゃんがオノマトペの絵本に惹きつけられる理由について、アリス館であかちゃん絵本の編集をしていた後路好章は、「日本児童文学 2009.9-10」の特集「絵本でひびきあう絵とコトバ」において
「ぽんぽん」「ぴよぴよ」「ころころ」は、擬音語・擬態語です。「ととけっこう」も「こけこっこう」から派生した擬音語(擬声語)です。赤ちゃんは、この擬音語・擬態語(オノマトペ)が大好きです。感覚的なことばだからです。特に擬態語のことばは、その一つ一つの意味を説明しようにも、どうにも明確に説明しにくいのが特徴です。それだけに、ことばの意味がまだ分からない赤ちゃんにとって、感覚的に体感できることばなのです。p48
後路氏は、その小文の締めくくりには、「赤ちゃんは、大人に関わってもらうために生まれてきました。新生児に話しかけると、口元がにっとほころびます。「天使の微笑み」といわれています。関わってほしいというプログラムを持って生まれてきた証拠です。赤ちゃんは、大人にやさしく「ことばかけ」をしてもらうことにより、「ことばの卵」を作り育てているのです。赤ちゃん絵本は、赤ちゃんに関わるための有力なツールです。絵本の中に仕組まれた心地よいことばの数々は、赤ちゃんばかりでなく、読み手の心をもやわらかくする、魔法のような力を持っている、とわたしは思っています。」(p49)と書いている。
まさに、人生の最初期の2〜3年にどんなことばを聞くのか、その質と量が、その子の「ことばの力」を既定していくのであるならば、いかにその時期に出合うことばが大事であるか、そしてどんな絵本を選んで読んで聞かせるか、そこが重要である。
そのためにも「ことばの絵本」について私たちは詳細に学び、どんな絵本が子どもたちにとって相応しいか、その選書する視点を持ちたい。
東洋大学准教授竹内美紀さんによる大人のための絵本探求講座第2期の4回目のリフレクションです。
(この講座は、インフィニティ国際学院の大人向けのカレッジ、インフィニティアカデミアの講座のひとつです)
第1期は5回分と第2期3回までの報告はブログ記事「ミッキー絵本ゼミ」(→こちら)でまとめて読むことが出来ます。
11月13日以来のゼミでしたが、各チームがその間に自主的な学びの時間を作ってフォローしてきました。私がFAを務めるチームは、その間1回だけでしたがチームMTGをやっています。4回目当日は2名の方が体調不良その他でお休みでした。
第4回は、前半は第3回のフォローとして「ファンタジー絵本」のフォローアップ、後半は「ことば遊びの絵本」についての講義とチームでのディスカッションでした。
**************
【ことば絵本】
*講義より*
音としてのことばの絵本
オノマトペ
唄 歌 わらべうた
マザーグース
ことば遊び
くり返し
だじゃれ
方言
昔話(結句)
「ことばの絵本は、ことばの響きやリズムを楽しむ絵本、しりとりやかぞえ歌などことば遊びの絵本、あいうえお、ABCなどことばと文字の認識絵本など、ことばや文字がとくに重要な意味をもつ絵本を総称していう。」生田美秋/石井光恵/藤本朝巳編著『ベーシック絵本入門』ミネルヴァ書房 p96
11月13日以来のゼミでしたが、各チームがその間に自主的な学びの時間を作ってフォローしてきました。私がFAを務めるチームは、その間1回だけでしたがチームMTGをやっています。4回目当日は2名の方が体調不良その他でお休みでした。
第4回は、前半は第3回のフォローとして「ファンタジー絵本」のフォローアップ、後半は「ことば遊びの絵本」についての講義とチームでのディスカッションでした。
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【ことば絵本】
*講義より*
音としてのことばの絵本
オノマトペ
唄 歌 わらべうた
マザーグース
ことば遊び
くり返し
だじゃれ
方言
昔話(結句)
「ことばの絵本は、ことばの響きやリズムを楽しむ絵本、しりとりやかぞえ歌などことば遊びの絵本、あいうえお、ABCなどことばと文字の認識絵本など、ことばや文字がとくに重要な意味をもつ絵本を総称していう。」生田美秋/石井光恵/藤本朝巳編著『ベーシック絵本入門』ミネルヴァ書房 p96
【リフレクション】
私の専門は幼児教育学で、中でも絵本論のゼミにいた。つまり特に乳幼児期の発達と合せた絵本の学びをしていた。
人生最初期のことばの発達は、脳の発達に繋がっており、家庭環境や運動機能などとも密接な関係がある。ことばは、人が「人間」として育っていくために必要なコミュニケーションのツールであり、自分の思いを表現するためにも、また相手の思いを理解するためにも大切である。
この「ことばの発達」には、脳の発達に関連して臨界期があることがわかっている。2018年に出版されたダナ・サスキンドの『3000万語の格差 赤ちゃんの脳をつくる、親と保育者の話しかけ』(明石書店)では、耳鼻科外科医である著者が、人工内耳を装着する手術が遅くなると人工内耳で音声を電気信号として受信できても「ことば」として理解できない、コミュニケーションの道具として脳が認識しないということがわかり、2歳くらいまでの間にたくさんのことばを聞くことの重要性を訴えている。

この、人生の最初期の2〜3年にどんなことばを聞くのか、その質と量が、その子の「ことばの力」を既定していくのであるならば、いかにその時期に出合うことばが大事であるか、ということになる。
言語心理学、認知科学が専門の今井むつみは『ことばの発達の謎を解く』(筑摩書房 2013)で、ことばの発達の過程を解き明かし、『親子で育てることば力と思考力』(筑摩書房 2020)では、ことばの力を育てることが、いかに子どもたちの思考力を伸ばすために大切かを解いている。
この時期に出合う「ことば」の質をどう担保するか。もちろん普段の家庭内での会話の質にも関連するが、やはりこの時期にどんな絵本を読んでもらうかによっても、大きな差が出るのではと考える。
この「ことば」とは何か。
どの国のどの民族に生まれるかによって、母語が違う。コミュニケーションの道具として、また思考のための概念形成のためにも、まずは基礎となる母語がしっかりと身についておく必要がある。
前出の『ベーシック絵本入門』には、「ことばの絵本の基本概念」として次のような記述がある。
「子どもがことばを獲得するには、両親をはじめ身近な大人が正しい発音で、ゆっくりと、頻繁に話しかける出生後の生育環境が重要であり、絵本の読み合いなどを通した豊富な言語環境を整えることが有効である。それによって子どもは母語である日本語をしっかり自分のものにすることができる。」p96
もちろん、「絵本」そのものが、短く、研ぎ澄まされた、選び抜かれた文章と、そして「絵」でもその情景を語り、子どもたちは絵を読むことによって、ことばになっていない部分のイメージを補い、物語の世界に誘われる。
「ことばの絵本」と特別にジャンルわけしなくても、すべての絵本が子どもたちのことばを育て、言語感覚を研ぎ澄ませていくことは間違いない。が、しかし、特にことばのリズムや、抑揚、ことばの持つ面白さ(韻を踏むとかダジャレなど)を伝えるには、こうした「ことばの絵本」は大切である。
たとえば、昔から口承で祖父母から孫へ、親から子へと伝えられてきた昔話やわらべうたは、そうした「ことば」の味わいを「音」として聞くことで、深く心に刻み付けてきたものだろう。
欧米では詩歌の暗誦を子どもの頃に盛んにやる。あれもまた、繰り返し詩を口に出すことで、ことばの持つ抑揚や韻を味わい尽くす働きである。
今、そうした口承による「ことば」の伝達が、昭和の高度成長期を境に受け継ぎにくくなっていることもあり、「ことばの絵本」の役割は非常に大きいと考える。
このような考察を経て、私がチームディスカッションで紹介した絵本は次の2冊であった。
まずは『すっすっはっはっこ・きゅ・う』

『すっすっはっはっこ・きゅ・う』長野麻子/作 長野ヒデ子/絵 童心社 2010
(出版社サイト→こちら)
絵本作家長野ヒデ子さんの娘さんで、音楽と身体論を研究されている長野麻子さん(研究者情報→こちら)の作られた絵本。
《内容》
呼吸ってすばらしい!声はまさしく呼吸から生まれ、言葉も音楽も呼吸から生まれる。呼吸は喜び、怒り、悲しみなど、さまざまな感情を表現できる私たちの命の源だ。ページをめくりながら呼吸をし、たくさんの声を出していろいろな気持ちを感じよう。なぜか不思議と楽しい気持ちになれる。(「BOOK」データベースの商品解説)
声を出して読むことで、呼吸して声を発して様々なコミュニケーションを行っていること、声は思いや感情を自由に伝える不思議な言葉でもあることが楽しく実感できる。(童心社サイトより)
《考察》
声は呼吸から始まるということが、読んでいてわかる。赤ちゃんの最初のことばも呼吸とともに発せられる。生後6週間くらいから始まる前言語的音声の「あー」「くー」というクーイング、そして「あーあーあー」という発声の喃語、そして喃語も「ばばば」「ばぶばぶ」と音節に子音の加わった喃語へと変化していく。そうした初めの発声からはじまり、より複雑な音へと、呼吸を意識させながら吸ってはいて、吸ってはいて、と繰り返していく。やがてその音声は笑い声になり、意識的にとがった声やまるい声を出し、いろんな音を出していく。へんな声、こわい声、おこった声、かなしい声、声の出し方や強さによって伝わる意味が違うことがわかっていく。
そうした音の出し方、声を出すときの呼吸にも意識しながら、声を出す楽しさを感じることができるため、親子で声に出して実際にそのちがいを実感することができる。その点で「ことばの絵本」として、注目に値する絵本といえる。
もう一冊は『あいうえおうた』

『あいうえおうた』谷川俊太郎/文 降矢なな/絵 福音館書店 1996
(出版社サイト→こちら)
《内容》
いろんな動物が登場するリズミカルな詩の絵本
3匹のネコの大きなあくびと「あいうえおきろ おえういあさだ おおきなあくび あいうえお」、2匹のワニがせんべいを食べながらテレビを鑑賞「さしすせそっと そせすしさるが せんべいぬすむ さしすせそ」、ウシが泣いていると「なにぬねのうし のねぬになけば ねばねばよだれ なにぬねの」……いろんな動物が登場するリズミカルな詩の絵本。50音を巧みに織り込んだ詩とイメージ豊かなエッチングの絵が楽しめます。(出版社サイトより)
《考察》
あ行など、行ごとのことばの持つイメージのひろがり、ことばのリズムが子どもたちを喜ばせる絵本。降矢ななさんの絵と共に、あ行からわ行までそれぞれの5音を使って唱え言葉が添えられ、これは自分でも声に出して味わいたくなる。日本語の50音の構成を知り、声に出して読むことで、ことばの面白さがわかる。この絵本は当初、月刊誌「年少版こどものとも」として出版されたこともあり、対象年齢は3〜4歳だが、小学生に読んで聞かせて、唱和してもらうと面白がって参加してくれる。対象年齢を問わない作品である。
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「ことばの絵本」というと、あかちゃん絵本の中でも特にオノマトペを用いた絵本が印象深い。
駒形克己の『ごぶごぶごぼごぼ』は、かつて図書館司書として働いていた頃、ブックスタート事業で保健センターの4カ月検診の際に持って行って読むことが多かった。生まれて初めて集団の場に連れて来られ、不安げにしている赤ちゃんたちが、『ごぶごぶごぼごぼ』を読むと、一斉に視線をこっちにむけ、じっと耳を傾けるのだ。その集中に背筋がぞわぞわすることが何度もあった。

『ごぶごぶごぼごぼ』駒形克己/作 0.1.2えほん 福音館書店 1999
駒形克己さんの講演会で、この絵本は娘さんが記憶していた胎内での思い出をもとに制作されたとおっしゃっていた。お母さんのお腹の中で聞いていた音に近いから、乳児が反応するのではないか。
また谷川俊太郎の『もこもこもこ』はあかちゃん絵本ではないのに、やはり小さな赤ちゃんが大好きな絵本である。

『もこもこもこ』谷川俊太郎/文 元永定正/絵 文研出版 1977
赤ちゃんがオノマトペの絵本に惹きつけられる理由について、アリス館であかちゃん絵本の編集をしていた後路好章は、「日本児童文学 2009.9-10」の特集「絵本でひびきあう絵とコトバ」において
「ぽんぽん」「ぴよぴよ」「ころころ」は、擬音語・擬態語です。「ととけっこう」も「こけこっこう」から派生した擬音語(擬声語)です。赤ちゃんは、この擬音語・擬態語(オノマトペ)が大好きです。感覚的なことばだからです。特に擬態語のことばは、その一つ一つの意味を説明しようにも、どうにも明確に説明しにくいのが特徴です。それだけに、ことばの意味がまだ分からない赤ちゃんにとって、感覚的に体感できることばなのです。p48
後路氏は、その小文の締めくくりには、「赤ちゃんは、大人に関わってもらうために生まれてきました。新生児に話しかけると、口元がにっとほころびます。「天使の微笑み」といわれています。関わってほしいというプログラムを持って生まれてきた証拠です。赤ちゃんは、大人にやさしく「ことばかけ」をしてもらうことにより、「ことばの卵」を作り育てているのです。赤ちゃん絵本は、赤ちゃんに関わるための有力なツールです。絵本の中に仕組まれた心地よいことばの数々は、赤ちゃんばかりでなく、読み手の心をもやわらかくする、魔法のような力を持っている、とわたしは思っています。」(p49)と書いている。
まさに、人生の最初期の2〜3年にどんなことばを聞くのか、その質と量が、その子の「ことばの力」を既定していくのであるならば、いかにその時期に出合うことばが大事であるか、そしてどんな絵本を選んで読んで聞かせるか、そこが重要である。
そのためにも「ことばの絵本」について私たちは詳細に学び、どんな絵本が子どもたちにとって相応しいか、その選書する視点を持ちたい。